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#35 鍵 2004.04
赤ん坊を抱えて、加代が悟に言った言葉は
「悟と過ごした時間があったから あたしは幸せになれた」
「今は結婚して杉田加代になったよ」
赤ん坊の父親はヒロミ。
二人は結婚していました。
赤ん坊の名前は『未来(みらい)』
再上映(リバイバル)以前の世界では、加代とヒロミは亡くなっています。
だからこの世界で二人が結ばれるのは必然だったのかもしれません。
加代の言葉は続きます。
「ホントは抵抗があったんだ… あたし達だけ幸せになって
いいんだべか?…って」
「悟が眠ってしまったのは、あたしの事が原因かもしれないのに…」
そんな加代に悟は笑顔で答えます。
「加代 僕の運命は僕のものだ 君が責任を感じる必要はないよ
今の僕がこうなっているのは きっと僕自身が望んだ事の結果だ」
加代は涙を浮かべながら
「15年も寝てたクセに・・・口が達者だね」
記憶を辿る悟。
「加代」という呼び方は自然に出た。
雛月は僕を「悟」と呼んだ。
・・・そんなに仲良かったか?
笛を無くした朝…………(2巻参照(18年前に初めて再上映(リバイバル)
した朝)それから眠るまでの空白の時間に、それ以前と違った
交流があった。
僕が眠りに就いた原因がただの事故じゃない事くらい判る。
加代の口ぶりから自殺未遂の線も消えた。
「事件」だ それをお母さんは僕に知られまいとしている…
どういう訳か、加代に対してはケンヤ達の時みたいな
「口止め」は無しのようだ。
加代が帰ってから腕のリハビリがてら彼女の絵を描いてみようと思った。
もうひとつの理由は、将来マンガ家になりたかった事を思い出したから
でもあった。
それと、自分の中に湧いた「妙な感覚」を確かめる為に。
「何だ これ!
自分が描いた絵の出来に、驚いてしまう悟。
佐知子が病室に入って来た為、慌てて絵を隠す悟。
病室の外、木の上には人影。
「あいつら また来てる」言いながらカーテンを閉める佐知子。
「三流ゴシップ誌のカメラマン…
15年間眠っていたあんたの事、記事にしたいんだべさ」と佐知子。
悟は、自分が過去に踏み込む事で、母親を悲しませると判っていても
どうしても解消したい衝動が芽生えてしまい苦悩する。
それは、「自分自身に対する疑問」
15年ぶりに目覚め、初めて自分の顔を手鏡で見た時の
感想は「痩せたなあ」だった…
普通なら「老けたなあ」とか「これが僕?」じゃないのか?
「良く判らないこと」は他にもあった。
あれ? お母さん僕の眼鏡知らない?と訊ね
母の言葉は「悟 何言ってんの?眼鏡かけた事なんて一度もないべさ」
今日、加代と話した時も…
中3の時の修学旅行の話を加代が始めた。
「ケンヤが血まみれになって帰って来てね…」
そこまで聞いた悟は、その先を続ける
「カズが他校の奴とモメて仲裁に入ったケンヤが木刀で頭を割られて
ヒロミがワセリンで止血してやったんだよ」
それを聞きながら、不思議そうな顔をしている加代に
「ケンヤ達から聞いた」と誤魔化す悟。
何だこの記憶は?
今僕が頭の中で創ったのか?
映像までハッキリ見えた・・・
「国鉄」が「JR」になって一年くらい経っても
違和感が無くならなくて、「国鉄」と呼んでたのに
初めて見たはずの「平成」という年号には、何の違和感も覚えなかった。
そして、普段使っている言葉「我慢」「痩せる」「喪失感」
「傍目」「仲裁」・・・全部漢字で書ける。
一体 いつ覚えたんだ?
それから加代を描いた絵。
自分のイメージを軽く超えて、腕が勝手に動いた。
「僕は 何なんだ?」
閉ざされたあの扉の奥に 答えがあるのだろうか?
病室には悟と母。
「加代が来たときさ 口止めとかしなかったでしょ…何で?」
「ケンヤ君とヒロミ君が帰った後さ…実はちょっと…
失敗したなって思ったんだわ ホントに言いたい事も
言えなかったねな…って」
「加代ちゃんと赤ちゃん見たら 口止めなんて出来るワケないべさ」
「15年も待って、目覚めた悟に会いに来てくれたのにさ」
「喋りだしたあんたが 声変わりしてて ああ…成長してるって
初めて感じて 嬉しかったよ」
「もう…大人なんだね」と言いながら『親愛なる友人 藤沼悟へ・Ⅰ』
『親愛なる友人 藤沼悟へ・Ⅱ』を手渡す佐知子。
「きっと悟が今…知りたい事がかいてあるよ」
「正直言うと ちょっと恐い けど、自分の子が何事かに
興味を持ったなら 応援するのが、親ってもんだべさ」
【親愛なる友人 藤沼悟へ・Ⅱ】
ここでは悟が眠ってしまった
その後の事を記そうと思う。
1988年3月14日19時過ぎ、市内の病院に搬送された君は
生命維持装置(人工呼吸器)を装着され、集中治療室で
1か月を過ごし、一般病棟に移った。
ICUを出た理由は君の状態が「安定」していたから。
入院から3か月、俗にいう「植物状態」の君に対し
医師からは「治療の継続を停止しよう」という提案もされた。
田舎の病院だし、長期治療にも向いてなかった。
更に「高額療養費制度」を利用して尚、高額な治療費の事も
考えての事だろうが、君のお母さんは、これを断固拒否した。
翌1989年7月、君は長期療養可能な千葉県の病院に移った。
皆には内緒にしろって言われたけど、僕と広美、雛月
カズ、修、彩ちゃんが中心になり仲間を集めて募金活動をして
入院の足しにしてもらった。美里が手伝った日もあったよ。
これは…実は今も続いている。
3年近く入院した後、君達は今住んでいるアパートに移り
自宅療養を始めた。人工呼吸器はレンタルで
入院時よりは治療費の負担も減った。
その状態のままさ更に9年程が経過した2001年…
君は突然、自発呼吸を始め、脳波も「睡眠状態」に回復したが…
起きなかった。
この頃一度、僕は君に会いに行ってるんだ。
声をかける事で反応がありはしないかと思って。
(中略)
君に会う為、頻繁に病院に通っていた広美はいつしか
医師を目指していた。僕は弁護士になり今も澤田さんと一緒に
「真犯人」を追い続けている。
(中略)
あの時、君は僕らのヒーローだった。
君に追いつきたくて、君と一緒に戦いたくて
今の僕らがある。
それを君に知って欲しかった。
時間を忘れて 2冊のファイルを読んだ。
ファイルⅡを読んで涙が出た。
僕にとっては、ただ眠っていた15年間だったけど
お母さんと僕の事を、こんなにも思ってくれる仲間が居た…
ひとりぼっちじゃない事が、こんなに誇らしいなんて…
初めて知った。
ファイルⅠには、「空白の時間」の事が書かれていた。
雛月加代と中西彩を救った件…
思い出せない…
まるで他人事のようだ…
思い出せないのは、ファイルⅠの内容が「空白の時間」の
一部分だけだからなんじゃないか?
僕はなぜ急にこんな事をした?
いつ「真犯人」の存在を知った?
ケンヤも知らない「何か」が僕にはある…!
扉を開ける鍵はどこに…
病院の庭園
骨髄移植が必要な女の子久美ちゃん(9歳)と悟。
手術を怖がる久美ちゃんに対して、悟から出た言葉は
「勇気の出し方教えてあげようか? 大切な人の笑顔を
思い浮かべるんだ」
その様子をカメラで撮っているのは、ゴシップ誌のカメラマン。
「15年間眠っていた男の幼女趣味。心は小学生の大人…」
そのカメラを取り上げ、カメラマンの顔面にパンチ!
そしてカメラからフィルムを取り出す。
「バカなの!?そんなデタラメにカメラを付き合わせないでよ!」
それは「アイリ」だった。
その様子を茫然と見ながら、車椅子から立ち上がる悟。
・・・運命の 邂逅!!
#36 始まりの地点 2005.05
悟とアイリ
様々な時を経て、また二人の時が交差する。
「お騒がせしました」と頭を下げるアイリ
それをジッと見つめる悟。
何故だ・・・?
僕はこの娘を知っている。
このまま帰すな。何か話しかけろ。
「頭下げるのはこっちだよ…ありがとう
君の方は…大丈夫?」
「大丈夫!!あっちが悪いもん 訴えたりとかしないでしょ」
「いや…その 手…大丈夫?」
「あ ちょっと痛い 思いっきり殴っちゃったから
目の前の事に、全力で踏み込むのがモットーなんで」
「それ 凄くいい言葉だ」
「そう言ってくれる人なかなかいないよ」
「カメラを あんな使い方する奴らは許せない!」
「あたし 夢があるんだ」
「どんな…夢?」
「写真撮りたいんだ 大好きな空の
日本中とか世界中とか カメラ持って旅したい」
そう言いながら、両手の指でフレーム(四角)を作り
空を見上げる(切り取る)アイリ。
佐知子が誘拐犯(真犯人)を目撃(誘拐を防ぐ)した
スーパーの駐車場(再上映リバイバル中)で、たくさんの風船が
空に上っていくとき「キレーな絵!」といいながら同じポーズをしていました。
(1巻参照)
なんだか、ずっと聞きたかった答えを聞いたような気がした。
その瞬間、悟の脳裏には様々な場面が浮かんできました。
空に上る風船
アルバイトをしていたピザ屋さん
家事になったアイリ(伯父さん)の家
アイリと自転車に二人乗りをしている場面
そして、倒れる悟。
夢を見ている悟。
修学旅行・・・頭を割られたケンヤ…止血の為に、ワセリンを
塗っているのは…自分。
え?ヒロミじゃなくて…僕…?
・・・何故 僕なんだ? ヒロミは…どこだ?
いない…どうして?いないのは僕のハズじゃあ・・・
いや…違う。
これは…僕の「記憶」だ・・・!そう認識した途端
「記憶」が溢れ出て来た。
殺されてしまったヒロミ
「僕なら助けられたハズなのに」
僕のこの「記憶」の中ではヒロミも雛月も、そして
中西彩も死んでいる。
じゃあ僕に会いにきたあの二人は…?
ケンヤのファイルで読んだ通り、僕が救ったんだ。
僕の中には二通りの「記憶」がある。
僕は同じ時間をくり返し生きた…?
「記憶」の断片をつなぎ合わせたい。
「記憶」をつなぐ鍵は何処だ…?
そして、母・佐知子が刺されて倒れているところを
思い出し目を開ける悟。ベッドに横たわっている。
側にいる母親に気付き声をかける「起きてたのお母さん?」
「あたしのセリフだべさ おはよう悟 あんまりくり返させんな」
「ごめん 僕…何日くらい寝てた?」
「何日?何日っていうか 386日 今日は2005年5月11日だよ」
「どーりで・・声も出づらいし…体も動かない」
「また、リハビリするしかないっしょ」
2005年7月
車椅子を歩行器に替えて歩く練習をする悟。
僕には取り戻さなくてはならない「記憶」がある。
その「記憶」の始まりは未来だ。
失敗した過去があって やり直して成功した現在がある。
この「成功」を完成させる為に「始まりの記憶」に
辿り着くんだ…!
僕がくり返し生きた街。
殺人事件が起こらなかった街。
そして 僕だけがいなくなった街。
「僕だけがいない街」始まりは、きっと
あの娘(アイリ)がいた時間だ。
アイリ アイリに・・・・・・会いたい。